2018年7月23日
慶應義塾大学医学部眼科学教室教授、医学博士 坪田 一男先生
本当は休みたいのに、家に帰っても仕事のメールをチェックしてしまう、ついついスマートフォンを見続けてしまって寝るタイミングを逃してしまうことはありませんか? ウーマンウェルネス研究会が、デジタル機器の使用と心身の疲れに関する意識調査を首都圏在住の20~40代の有職男女643人を対象に実施したところ、約6割がデジタル機器との“つながりっぱなし”による心身の疲れを実感していることがわかりました。
*「デジバテ」とは、当研究会が命名したデジタル機器との“つながりっぱなし”の状況が引き起こす、心身の不調の総称です(表①参照)。
表①
実施した意識調査の結果、なんと全体の6割がデジバテを実感しているという結果に(グラフ①参照)。
グラフ①
デジタル機器の使用時間を調査したところ、1日7時間を超える人が42%、10時間以上と答えた人は16%となりました(グラフ②参照)。
グラフ②
さらに、自分がスマートフォンに依存していると自覚している人は、全体の約7割を占め、なかでも20代は85%がスマートフォンへの依存を自覚しています。デジバテを実感している人が多いなか、約4割が寝る直前までスマートフォンを使用していることが明らかになりました。
デジタル機器の使用によって疲れを感じる身体の部位は、「目(84%)」が最も多いという結果に(グラフ③参照)。日常生活にも影響が出ていることがわかりました(グラフ④参照)。また、スマートフォンの使用によって減った時間1位は睡眠時間という結果となっています。
グラフ③
グラフ④
ふだんの生活習慣が「デジバテ」を引き起こしているかもしれません。「デジバテ」度をチェックして、デジタル機器との付き合い方を見直しましょう。
※3つ以上当てはまったら要注意!
□就寝前にベッドの中でスマホを使用している□仕事ではPCに向き合っていることが多い□一日中、スマホが手放せない□夜、なかなか寝つけないことがよくある□朝すっきりと起きられないことが多い□昼間は身体も気分もだるく、スマホはできるが、他のことはやる気がおきない□朝、目が開けにくい□目が疲れる。目がごろごろしたり、充血するなどの不調がよくある□目薬をさすと目の疲れがやわらぐ□目がかすんだり、見づらいと感じたりすることがよくある
(ウーマンウェルネス研究会作成)
ドライアイや屈折矯正治療などの眼科を専門とし、ブルーライトの人体への影響についてもくわしい眼科医の坪田一男先生は、デジタル機器による健康への影響について、次のように話しています。
「デジタル機器から得られる情報のほとんどは“視覚情報”です。目は脳のインターフェース。今の情報社会で目はかつてないほどの負担を強いられています」
デジタル機器による健康への影響はおもに2つ挙げられます。
目の毛様体筋などの筋肉が長時間の緊張でかたまってしまったり、時にはけいれんを起こしたりしてしまうこともあります。
凝視によりまばたきが減って、涙の乾きや涙の異常が引き起こされます。近年ドライアイがとても増えています。
散乱しやすいブルーライトの光は、そのちらつきにより目の疲れを引き起こすことも。スマートフォンやPCを凝視しているときは目も乾きがち。乾燥すると、目の中にブルーライトの光がさらに散乱してより見づらくなったり、目の負担が増したりすることがわかっています。また、スマートフォンやデジタル機器はまばたきを減らしてしまうため、目の油分不足などさまざまな不調を引き起こします。
目に入る光は体内時計に影響を及ぼすことも明らかに。夜間のコンピューターを使った作業やスマートフォンの長時間使用は、「サーカディアンリズム(一日の昼夜の身体のリズム)を崩して、不眠の原因となります。
さらに、身体のリズムが崩れたシフト勤務の人は、乳がん、前立腺がん、糖尿病、高血圧、肥満、うつなどの発症率が高いことがよく知られており、海外ではサーカディアンリズムが労災認定の基準のひとつとなっている例もあるほどです。
英国エディンバラ睡眠センターの研究では、就寝1時間前のメールチェックは、エスプレッソコーヒー2杯分の覚醒作用があると報告されています。
朝の光にたくさん含まれているブルーライトは、体を朝のモードにリセットして体内時計を整えてくれます。同時に体を動かせば血流もよくなり、脳の活動も活発になります。 また、「朝食を決まった時間に食べる」ことも体内時計にとって大切です。「脳を働かせるために必要なのは糖分」は間違いです。パンとコーヒーだけではなく、野菜やたんぱく質などの栄養バランスのよいしっかりとしたメニューを選びましょう。
仕事中、パソコン画面をじっと見続けることで、目や体に過度な負担がかかります。時々席を立って、遠くを見る、体を動かすことが大切です。1時間に15分は別の作業を取り入れるよう工夫を。また、オフィス内では、目の乾燥に注意を。顔にエアコンの風が当たらないようにしたり、モニター画面をなるべく低い位置に設置して目の開く面積を狭くし、瞬きを意識的に増やしましょう。
夕方以降に目にブルーライトを入れると、体内時計が狂いやすくなります。とくに、就寝前2時間のPC作業やスマホはやめましょう。質の高い睡眠に向けて、副交感神経が優位になる“深いリラックス”をすることが重要です。深呼吸やストレッチ、メディテーション(瞑想)などで、昼間緊張し続けた神経をリラックスさせましょう。
目もとを温めることもリラックスに有効なことがわかってきました。目もとには温度を感受する感覚神経が多く集まっており、心地よさを感じやすい約40℃前後の温熱で目もとを温めると、緊張がほぐれることが報告されています(グラフ⑤参照)。蒸しタオルによる蒸気温熱は、乾いた熱に比べて、身体に多くの熱を伝え皮膚を深く広く温めることができます。また、目もとを温めると、涙の油分が良い状態になることも分かっており、ドライアイ予防にも有効です。
グラフ⑤
また、就寝前のスマートフォンをなかなかやめられない人は、アイマスクを使うのもおすすめです。自然とスマートフォンから離れる時間を作ることができます。
坪田一男先生
慶應義塾大学医学部眼科学教室教授、医学博士。1980年慶應義塾大学医学部卒業。1985年ハーバード大学留学、1987年同大学クリニカルフェローシップ修了。日本抗加齢医学会理事、日本角膜学会理事、ドライアイ研究会世話人代表、南青山アイクリニック手術顧問などの要職を務める。ドライアイ研究の論文数、引用ともに世界トップの実績をもつ。近著に『あなたのこども、そのままだと近視になります。』など。
<意識調査概要>調査方法 : インターネット調査調査期間 : 2018年5月11日~5月14日調査対象 : 首都圏在住の20歳~49歳の有職男女643名調査内容 : デジタル機器の使用と心身の疲れに関する意識調査
写真:PIXTA
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