監修:片平歯科クリニック 院長 片平 治人(かたひら はると)先生
マスク着用が日常になり、人と会う機会も少なくなったことで、人と話したり笑ったりという口を動かす動作が減り、口内環境の悪化を感じている人が多いようです。ウーマンウェルネス研究会では、コロナ禍における口内環境の変化について首都圏在住の495人(20代〜60代男女)を対象に、調査を実施しました。
調査によると、マスク着用や在宅勤務が定着してきた新型コロナウイルス感染拡大以降(2020年3月以降)、約7割の人が口内のトラブルを経験していることがわかりました(グラフ①)。感じている症状としては、1位「口臭(54.0%)」、2位「口の乾き(42.0%)」、3位「口内炎(39.8%)」という結果でした(グラフ②)。
また、長期化するマスク生活で、約64%の人が「口を動かす機会が減った」と感じていることがわかりました(グラフ③)。コロナ禍における変化として、「ストレスを感じることが増えた(67.1%)」「人と話す機会が減った(60.2%)」「表情が乏しくなった(59.4%)」という回答も多く見られました(グラフ④)。
こうしたコロナ禍での生活習慣の変化による口内トラブルのリスクについて、片平歯科クリニック院長の片平治人先生にお話を伺いました。
今回の調査で挙げられている口臭や口の乾き、口内炎などの症状は、唾液の減少と関係しています。日常的なマスク着用が続き、在宅勤務で人と会う機会が減ると、口もとや舌を動かさなくなり、唾液分泌が減少しやすくなります。また、マスクの中で口もとの筋肉がゆるみ、口呼吸になって口内が乾くことも、唾液分泌の減少につながります。ストレスの蓄積も唾液分泌の減少の原因となります。
唾液には口の中を清潔に保つ働きがありますが、量が減ると、その自浄作用が働きにくくなります。そのため、口内の菌が繁殖しやすくなり、口内トラブルを引き起こす一因となるのです。
【唾液の減少度チェック】
唾液が減っていても、ほとんどの人は自覚症状がありません。そこで、下記の項目をチェックしてみましょう。当てはまる項目が多いほど、唾液が減少している可能性が高いといえます。
■口臭を感じる
■口内炎ができやすい
■よくのどが乾く
■コーヒーや紅茶・緑茶、お酒をよく飲む
■起床時に口が乾いている
■舌の上に白いよごれ(舌苔=ぜったい)がたまっている
感染症対策や全身の健康のためにも、お口メンテナンスは重要です。最近では、口内の細菌数はウイルス感染に関与することが解明されつつあります。また、適切なメンテナンスを行うことにより、特定のウイルス性疾患(インフルエンザ)の発症率が減少するという研究結果があり、口内菌を減らすことはウイルス感染症予防につながる可能性が考えられます*。
*奥田克爾ほか、平成15年度厚生労働省老人保健健康増進等事業, 口腔ケアによる気道感染予防教室の実施方法と有効性の評価に関する研究業務報告書,地域保健研究会,東京 (2004)
https://www.kao.com/jp/hygiene-science/general/oral-care/
口内には600種類以上の菌がすみついており、個人差はありますが、その6割は舌に存在するというデータがあります(グラフ⑤)。歯みがきをしっかり行っていても、舌はケアできておらず、「舌苔(白いよごれ)」が付着している人が多いようです。この舌苔は菌のかたまりで、バイオフィルムといわれる強固な膜のような状態で舌にはりついています。通常の歯みがきやうがいだけでは落ちにくいため、舌の上の菌まで除去するお口メンテナンスをすることが望ましいでしょう。
下記のように、日常生活の中にかんたんに取り入れられる方法で、舌まで含めたお口メンテナンスをしましょう。
舌の菌を除去しようとして、歯ブラシでゴシゴシ舌みがきをすると、舌を傷つけてしまう恐れがあります。舌専用ブラシなどでケアをしましょう。おすすめは、泡を舌の上に直接のせる泡ハミガキです。舌の奥のほほの粘膜など、歯ブラシでは届かない部分にまできめ細かな泡がいきわたり、密着してよごれを洗い流してくれます。
ゆるみがちな舌の筋肉を鍛えると、口が閉じやすくなり、口呼吸が防ぎやすくなります。仕事や家事の合間に毎日行うのがおすすめです。
1.正しい舌の位置を確認
口を閉じ、舌先を前歯裏側のふくらみ(切歯乳頭)に触れたまま、唾液をごくんと飲み込み、舌が上あご全体にピタッと吸盤のようにくっつくようにします。これが正しい舌の位置です。口を閉じているときは、いつもこの状態を意識しましょう。
2.タッピング
正しい舌の位置を意識しながら、上あごにしっかり舌を密着させたまま口を大きく開けて舌の裏のスジ(舌小帯)を十分に伸ばします。そのまま5秒ほどキープしてから、「ポン」と音が鳴るように勢いよく舌を離しましょう。
耳の下にある「耳下腺(じかせん)」、あごの内側にある「顎下腺(がっかせん)」、あごの下にある「舌下腺(ぜっかせん)」の3つの唾液腺をやさしくマッサージすることで、唾液の分泌が促されます。
<意識調査概要>
調査方法:インターネット調査
調査期間:2021年9月3日〜9月10日
調査対象:首都圏の20歳〜69歳の男女495名
調査内容:コロナ禍における口腔環境の変化に関する調査