監修:国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 栗山健一先生
テレワークなどの新しい生活様式が浸透しつつありますが、さまざまな不安とともにストレスはたまる一方。在宅時間が増えて、生活リズムが乱れたり、運動不足に陥っている人も多いようです。そんな中、「眠いのに寝られない」「眠りが浅い」「寝ても疲れがとれない」といった、睡眠不調の声もあがっています。睡眠の質を改善してよく眠る秘策は? 睡眠の専門家・栗山健一先生にお話を伺いました。
新型コロナウイルス感染拡大により、新しい生活様式が求められている今、睡眠に対する不調を訴える人が増えています。栗山先生によると、おもな理由として下記の4つが考えられるそうです。
テレワークや外出自粛で在宅時間が増えたことにより、生活リズムが乱れ、多くの人が “遅寝遅起き型”になっています。眠気は、脳や身体の内部の温度(深部体温)が低下することで訪れるのですが、遅寝遅起きを続けていると、深部体温が下がるタイミングが後ろにずれるため、通常の生活リズムに戻ったときに深部体温が適切なタイミングで低下せずに、寝つけなくなってしまうのです。
テレワークで通勤をしなくなり、プライベートで外出する機会も減ったため、多くの人が運動不足に陥っています。人は身体の疲労感がないと、睡眠の必要性を感じないため、なかなか寝つくことができません。また、寝つくには深部体温の上昇と下降のメリハリが必要なのですが、運動不足により血流が悪くなっていると、深部体温の調整がうまくいきません。このことも、寝つきが悪くなる原因になっています。
テレワークになると、オンライン上でのやりとりが主流に。そのため、時間外であっても仕事を依頼する側は頼みやすく、受ける側も常に仕事が来るのではと構えている状況になりがちです。こうしてオンとオフの切り替えがしづらくなると、不眠につながるストレスを感じるようになります。
今までの生活ルーティンが守れないことや、「家事や育児などの負担が増えた」「やりたいことができない」といったストレスが、「寝つきが悪くなる」「眠りが浅くなる」「長時間眠れなくなる」などの睡眠不調を感じる原因になっています。
「寝つけない」「途中で目が覚める」などの理由で睡眠効率が悪くなると、風邪の発症率が上がる傾向があるなど、免疫と睡眠には深い関わりがあります。質の高い睡眠をとることは、健康を維持する上で欠かせません。さっそく対策をしましょう。
質の高い睡眠をとるために重要なのは、生活に“オンとオフ”のメリハリをつけることです。新しい生活様式に合わせて、生活リズムを整えましょう。そのために守りたいのは、下記の3つです。
毎朝、布団の中でダラダラしたり、二度寝をしたりするのをやめて、同じ時刻に起きましょう。朝日を浴びてから約14時間後に、睡眠を促す「メラトニン」というホルモンが脳から分泌されはじめるのですが、朝日を浴びないと、このメラトニンによる“眠るスイッチ”が入らない状態になり、夜、寝たいと思ったタイミングで眠れなくなってしまいます。布団から出たら、通勤の必要がなくても、ベランダや玄関に出て、必ず太陽の光を浴びることを習慣にしましょう。
テレワークだからといって、際限なく働くのはNGです。「勤務時間はここまで」と決めて、パソコンを閉じたら完全にプライベートタイムにシフトし、家族との団らんや、自分のリラックスのために時間を使うように心がけましょう。夜遅くに仕事のメールをチェックするのは、交感神経の活動が高まって寝つけなくなるのでおすすめできません。同じく、SNSなども心をざわつかせるので、寝る前はチェックしないようにしましょう。
新型コロナウイルスの感染状況などをある程度知っておくことは大事ですが、不安におそわれるのであれば、就寝前は暗いニュースなどの情報を避けるのもひとつの方法です。
スムーズに寝つけて、深く眠れる。そんな“質の高い睡眠”をとるカギは、入眠前の“血流促進による体温調節”と“リラクゼーション”にあります。「目もと温め」と「炭酸入浴」は、そのどちらも叶えてくれて、かんたんにできる“温め習慣”です。ぜひ、毎日のセルフメンテナンスとして取り入れてみてください。
入眠前に目もとを温めるとリラックスし、副交感神経の活動が高まります。副交感神経活動が高まると、血流がよくなり手足の皮膚温度が上がります。すると、身体の外に熱が逃げるため、深部体温が下がり、スムーズに入眠できて深い眠りにつけるようになります(データ①、②参照)。
目もとを温める温度は、心地よいと感じる40℃程度がおすすめです。蒸気を含んだ熱のほうが乾いた熱よりも身体に深く広く伝わり、高いリラックス効果が期待できるので、蒸しタオルや、市販のホットアイマスクを使うといいでしょう。
ぬるめのお風呂につかると、リラックスして副交感神経の活動が高まります。すると、皮膚血管がゆるんで血流がよくなるため、深部体温がしっかり上昇。その後、手足から放熱が促されるので、深部体温が急下降します。深部体温が下がるタイミングで布団に入ることで、スムーズに入眠でき、深い眠りにつくことができます。
お風呂の温浴効果を高めるには、炭酸ガス入浴剤を入れる「炭酸入浴」がおすすめです。お湯に溶け込んだ炭酸ガスが、皮膚の血管を拡張するため、より短い時間で効率的に身体を温めることができます。また、全身の血行がよくなるので、疲労回復にもつながります。
「熱い」と感じるお湯では、交感神経を刺激してしまうので逆効果です。心地よいと感じる約40℃のお湯にゆったりつかって、リラックスしましょう。