監修:産業医、医療法人社団 同友会 産業医室勤務 大室正志先生
毎日、寸暇を惜しんでがんばっているのに仕事が進まない……それってもしかして脳疲労のせいかも。脳疲労って何? 回復させるにはどうしたらいいの? 「ビジネスパーソンの疲れのスペシャリスト」である産業医の大室正志先生にうかがいました。
現代人の疲労の正体は、交感神経が優位な状態が続くことによる慢性的な「脳疲労」。スマホやWi-Fiなどのモバイル環境の発達で、24時間どこでも仕事ができるようになったのがおもな原因です。少しでも時間があれば、スマホを取り出してメールをチェックしたり、情報収集したり……。常に脳がアクティブに活動していて、何も考えない“すきま時間”はほとんどありません。
人間の脳のスペックは、新人類が誕生したとされる20万年前からほぼ変わっていないのに、環境が劇的に変化したため、脳にはかなりの負担がかかっていると考えられます。一説には、現代人が1日に受けとる情報量は、江戸時代の1年分とも。これはまるで、バッテリー容量は増えないのに、アプリだけが増え続けるスマホのような状態です。
脳疲労の状態では、効率よく質の高い仕事をすることはできません。では、脳疲労を回復させるには、どんな方法があるのでしょうか?
世界で最もハードにパソコン作業を行っている、“脳疲労先進地区”ともいえるアメリカのシリコンバレーでは、ビジネスで高いパフォーマンスを発揮するために、今、1日8時間程度「しっかり寝ること」を心がけている人が増えているそう。それだけ睡眠が重視されているのです。
さらに、良質な睡眠をとるには、脳疲労の状態である「交感神経が優位な興奮状態」から、脳を休息させる「副交感神経が優位な状態」に切り替える必要があります。寝る前にぬるめのお風呂に入る、適度な運動をする、頭を使わず手だけ動かして集中する(大人の塗り絵や編み物、写経etc.)など、自分なりのリラックスタイムをもって脳の疲労を和らげましょう。
日本には日本ならではのお風呂スタイル(湯船入浴)があります。なかでもとくにおすすめなのが、高濃度炭酸入浴です。
高濃度の炭酸ガス入りの入浴剤を入れると、リラックスできるぬるめのお湯でも末梢血管が拡張し、血流を促してくれるので、凝りかたまった疲れを芯から和らげることができます。しかも、体内の中心部分の温度である深部体温もしっかり上がります。深部体温が上がると、下がるタイミングで心地よい眠気が訪れるので、質のよい睡眠につながります。
さらに、継続的な高濃度炭酸入浴は、年齢とともに低下する自律神経の活動度をアップさせるというデータもあり、いいことずくめです。
写真:Thinkstock / Getty Images