監修:医師、医学博士、健康科学アドバイザー 福田 千晶先生
夏バテで食欲がなくなり、やせる人が多い、というのは昔の話。ウーマンウェルネス研究会の調査によると、「夏やせ」する人は約1割、逆に「夏太り」する人は約3割と、実は夏に太る人が多いことがわかりました。今回は、「夏太り」と「夏やせ」の違いを解説します。
医学博士で健康科学アドバイザーの福田千晶先生は、「夏太り・夏やせ、どちらのタイプかは、胃腸の働きが大きく影響しています。もともとやせぎみの人は胃腸が弱いため夏やせしやすく、逆に太りぎみの人は胃が丈夫で食欲が落ちず、夏太りする傾向にあります(下イラスト参照)。また、夏太りする人は、秋になっても食欲が落ちないため体重がに元に戻らず、年末年始も冬太りするなど“負のサイクル”に陥りがちのため、早めの対策が大切です」と指摘しています。
夏は夏バテで食欲が落ち、やせるイメージがあります。ところが692人(20~50代男女)を対象に昨夏の体重変化について調査したところ、「太った」人は31.6%、「やせた」人は10.8%という結果となり、太った人はやせた人の約3倍にのぼりました(グラフ①)。また、年代別でみても、どの年代も夏太りは夏やせの3倍にのぼり、とくに30代では約4割が夏太りを経験していることがわかりました。
夏太りした女性のうち、体重が元に戻ったのはわずか3.5%。また、約96%の人が元に戻らず、「秋にさらに太った」と回答している人も約31%にのぼりました(グラフ②)。
暑さがおちついて食欲が旺盛になる秋に入ると、そのまま秋太りしてしまいがちです。さらにクリスマスやお正月などイベントが多い年末年始を迎えると、「体重増加の負のサイクル」にはまる可能性が高まります。
太った理由を回答の多い順にみると、女性は「食欲が落ちず、逆にたくさん食べた」「アイスクリームやかき氷など冷たく甘いものをたくさん食べた」「運動量が減った」でした(グラフ③)。福田先生は、「冷房が普及している現代では、屋外での活動が多い人を除けば、夏だからといって食欲が落ちることがありません。食事量が変わらない上に、アイスクリームやかき氷など、冷たくて甘いスイーツをとる機会も増えていることが夏太りの原因と考えられます」と注意を促しています。一方、男性は運動不足に次いで、ビールやアルコール類、脂っこい食事をとったことを太った理由に挙げており、女性とは異なることがわかりました。
【夏の体重変化実態調査概要】
調査方法:インターネット調査
調査期間:2015年3月23日(月)~3月25日(水)
調査対象:20代~50代の男女
有効回答:718サンプル
福田先生に、夏太り・夏やせの原因と解決方法をお伺いしました。
夏は気温が体温に近づくため、体温維持のためのエネルギー消費が少なくてすみます。すなわち、ほかの季節と比べて基礎代謝量が低く、カロリー消費が低い状態といえます。

参考 藤本ら1954:小池五郎「やさしい栄養学」(女子栄養大学出版部より)
暑さを避けるため、徒歩通勤をバス通勤に変える、運動や外出を控えるなど、生活の中での活動量が減る傾向にあります。その積み重ねが、大きな活動量の差になってしまうことも。
夏バテしないようにとスタミナ料理や脂っこいものをたくさん食べたり、暑いからとビールや冷たい飲み物、アイスクリームやかき氷など冷たくて甘いスイーツをとったりする機会が増えます。さらに夏は日が長いため、食事時間が長くなったり遅くなったりしがち。こういった食習慣が、カロリー過多や偏食を招きます。
対策その① 肩甲骨まわりを動かす軽い運動やウォーキングを続ける
肩甲骨まわりには、脂肪を燃焼しやすくする褐色脂肪細胞があります。この細胞を刺激して活性化させることで、脂肪を燃焼しやすくなります。肩甲骨まわりを無理なく動かす運動としておすすめなのは、ラジオ体操とウォーキング。ウォーキングする際は、腕を大きく振ることで自然と肩甲骨まわりも動かせます。日中減ってしまいがちな活動量を、朝晩の涼しい時間帯のウォーキングで補いましょう。
茶カテキンなどの脂肪燃焼効果が認められた食品をうまく取り入れることもおすすめ。最新の研究では、茶カテキンは褐色脂肪細胞を活性化することもわかってきています。茶カテキンのほかに、トウガラシ、ニンニク、ショウガ、キムチなどでも褐色脂肪細胞の活性作用が報告されていることから、これらを食事に上手に取り入れるとよいでしょう。
対策その③ 生活スタイルを見直し、しっかり睡眠をとる
夜更かしや暑さによる不眠で睡眠時間が減少すると、脂肪は燃焼しにくくなります。夜更かしせず、リラックス効果のあるメントール入りアイマスクを活用して、快眠を心がけましょう。
福田先生は、「急激なやせ方でなければ、夏やせを心配する必要はあまりありません。ただし、夏やせから疲れやすくなったり、集中力がなくなったり、食事が億劫になるような場合は注意が必要です」と指摘します。
夏の高温・多湿で自律神経が乱れがちになり、食欲が低下します。
原因その② 冷房や冷たい食事による「内臓冷え」で消化機能が低下
やせている人は、エアコンの冷気から内臓を守る皮下脂肪が少ないため、胃腸が冷えて機能低下を起こします。また、冷たいものばかりを食べていると胃腸(内臓)が冷え、消化酵素の働きが低下するともいわれています。胃腸の働きが弱ると食欲も低下し、食べたものからの栄養も充分に得られなくなります。
夏やせする人の多くは身体が冷えています。夏でも湯船につかって全身を温め、自律神経を調えることが大切です。入浴時に炭酸入り入浴剤を使うと、ぬるめのお湯(38℃)でも血流を促進することができるので、夏でも身体がほてらず、入浴後も快適に過ごせます。
対策その② 冷房下では、温熱シートなどを利用してお腹を温める
冷房が効きすぎる環境にいる人は、胃腸を冷やさないためにお腹を温めることが大切。重ね着したり、肌に直接貼ることができる温熱シートを腹部に貼ったりして、お腹を冷やさないようにしましょう。
夏は冷たいものをとりすぎてしまいがちなので、1回の食事で少なくとも1品は温かいものをとりましょう。夏バテすると食事自体を億劫に感じてしまいますが、食べたいときに食べる、お惣菜など時短料理を活用する、ニンニクやショウガ、柑橘類や酢の物などを上手に使って食欲を刺激するなど、工夫して食事を楽しみましょう。また、食事のタイミングは、食欲がでる入浴後がおすすめです。
写真:Thinkstock/Getty Images